旅立つりんご

  一
人と人の心を結ばんと
太陽の輝き
星ぼしのぬくろみ
ラブストーリーの筋書きそのままに
繊細にして思いは満ち
雨 風 秋晴れと
季節のその時その時を我が身に詰めて
りんごはあなたの住む町へ行く。

  二
育った宇宙のふところ大自然とは何もかも相違して
にぎやかな雑踏のなか
遠い海の彼方からはるばるやってきたもの
南からきたもの
同郷のラ・フランスぶどうもも等といっしょに
くだもの屋の店先に並ぶ。
静かな雪の故郷を懐かしんで小さな空を見ていると
求められて
恋に輝くあなたの芳香となる。

  三
恋はほのかに紅さすりんごのようだ。
思いつのる人のことで小さい胸はいっぱい。
眠ればその人がハラハラと消えていくようで眠るのもつらい。
それまで意識したことのない心臓の鼓動が
大太鼓のように響いて胸を締めつける。
花びらが散るように
身も心も絶え入りそうに。
そんなつらい恋も終止符を打って
ゆったりとした安らぎの愛に変わる。
紅色に熟したりんごが
あなたを恋から愛に優しく変身させる。

  四
恋は自分の喜びを願い
熟して愛は人の幸せを思う。
人の幸せを思い始めると
厚いカーテンは軽やかに開き
難攻不落の要塞は崩れて
障害は何もかも跡形もなく消えてしまう。
途切れたりんごの軸が
絶えざる生命の星ぼしとつながっているのをあなたは見
ふくよかな紅色が
あなたの心を染め包んでいるのを知ってください。
時は穏やかに蛇行して
優しいくつろぎに包まれています。

  五
手のひらでりんごを包み目を閉じる。
やまびこのようにりんごと人の思いが行き来して
ひんやりとした大自然の秋空が
心を濾過しいやしていきます。
優しくありたいのに
慰めてほしいのに
人は心ならずもひねくれてしまう。
そんな悲しい生活を洗い流す涙が頬を伝う。
草木の葉に光る朝露のように。

  六
子供はりんごが大好きです。
軸の先に銀河のうねりが見えるから。
りんごの丸やかさに空を舞う鳥のロマンを見るから。
紅色に希望の胸を燃やすから。
恋するものはりんごが大好きです。
素直な心を取り戻すから。
愛するものはりんごが大好きです。
疲れきった傷だらけの心をいやしてくれるから。
たそがれるものもりんごが大好きです。
悠久の渦巻きと共にある誇りを見いだすから。

  七
りんご園を子供等が遊びまわる。
走ったり草花を摘んだり
歌ったり怒ったり眠くなるまで。
年寄たちは樹の下で
昔の話を繰り返し繰り返し
笑い涙ぐみ
ときどき句点のように沈黙し思いに耽る。
働くものはりんご色に日焼けして
今日もまた幸せを果実のなかに詰めています。
それがあなたの手に持つりんごです。