東京

   一 山手線
人走る
子供走る
学生走る
サラリーマン走る
老いた人も走る
電車分刻みで来る
乗る人常に前の電車に乗り遅れる
時走るところ
   二 神保町
久しぶりの神保町
青春を心弾ませ歩いた街
地下鉄駅の階段を跳ねて昇れぱ懐かしい本の匂い
若い私があの書店先で
この書店先でこの棚で目を輝かせて本をめくっている
若い日には本を読み
そして旅立とう
大自然は待ちぼうけの天才だから期限がないので大丈夫
人はわざ磨いて心失う
言葉を忘れて詩を創り
人を離れて人の気持ち取り戻すのだ


   三 高野フルーツ
星も隆らない
雨も降らないビルのなか
みんなどんな自然に生きてきたのやら


   四 新宿歌舞伎町
威勢の良かったあのラーメン屋はどこに隠れてしまったのだろう
青臭い理屈と歌声で渦巻いていたあの喫茶店はどこへ行ってしまったのだろう
ここはおじさんの街になってしまったようだ
腕組んで歩いた若い私達が見つからない


   五 甲州街道
街路樹が街道を覆ってしまって青春を歩いた脇道が見つからない
夜に寮を抜け出して拝借した野菜の畑もビルと道路につぶされ飲み込まれてしまった
私の記憶も時間に喰われてかすれていく
だけど排気ガスですすけても街道の緑はいい
人の憂いを慰めるから
私の青春
ありがとう
さようなら
また来ます


   六 転じて
老人は残り田畑は荒れ
村は寂れる
村は自然に飲み込まれ
人は都市に吸い取られる
だけど嘆くことはないんだ
物ごとの道埋は時計の振り子
集合と分散は時計の振り子
分散したものはいずれ集合するんだから
分散は集合をめざす運動なのだ
人は自然から離れていく
人は自然に戻るために離れていくんだ
都市は自然に恋こがれる心の集合体なんだ
時流れるところ